がん治療についての最新の診断・治療方法をご紹介します。
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▼本間 之夫 : 東京大学医学部泌尿器科 教授
「先端的医療技術HIFU 超音波が拓く新たな癌の治療戦略」
▼辻井 博彦 : 独立行政法人放射線医学総合研究所理事
「先進医療としての重粒子線治療の現状と将来」
超音波を高度に集束させて発生する熱を利用して癌を治療する先端的医療技術のHIFU。臨床的にも前立腺癌に広く用いられつつある。
High Intensity Focused Ultrasound(HIFU:高密度焦点式超音波)とは、超音波を高度に集束させて発熱させる技術である。この手法を人体に用いた場合、人体深部の一部組織を、周囲組織にはほとんど影響を与えないまま、壊死するまでに加熱することが可能である。歴史的には1940年ころより医療への応用は試みられていたが、臨床的に実用化されたのは1990年代になってからである。
わが国では前立腺肥大症の治療機器として1993年より臨床試験がなされ、1996年には医療用具として承認を受けた。ただし、肥大症に対する臨床効果は必ずしも満足するものではなかった。
一方、近年の人口の高齢化と腫瘍マーカー(PSA)の普及に伴い、前立腺癌患者、特に早期前立腺癌の患者が増えてきている。早期癌の標準治療は前立腺全摘出術、根治的放射線照射などであるが、より侵襲性の低い治療が望まれている。
そのような中で、前立腺癌に対する低侵襲治療のひとつとしてHIFUが注目を集めている。
前立腺癌患者に対するHIFU治療としては、直腸内より超音波を照射して前立腺を焼灼した1994年のオーストリアからの報告が世界的には初めてであろう。
照射後に前立腺を摘出したところ、直腸を含めた焦点領域外の介在組織には損傷がなく、癌組織が焼灼(Ablation)されていることが確認された。わが国でも2000年頃より治療機器:Sonablate (Focus Surgery社)を用いた治療が広く行われるようになり、既に3300例以上の患者が治療を受けていると推定される。
Sonablateは、直腸内に超音波プローブを挿入し、超音波モニター下に治療用の超音波を発生させ、前立腺内の3mmX3mmX10~12mmの焦点領域に1300~2200W/cm3のエネルギーを集めて加熱する装置である。
プローブ内には常時冷却水が循環し、直腸を保護する。実際の治療では、焦点領域を順次移動させて加熱し、通常の大きさの前立腺(20ml~30ml)であれば、前立腺全体の焼灼は約1時間半~2時間で終了する。最近の530例の症例集積研究では、平均24か月の術後観察期間で、術前内分泌治療を併用した場合は83.7%、併用しない場合は71.5%の成功率(PSA再発なし)が得られている。これは手術治療との比較ではやや劣るものの決して遜色のない成績である。
最近では、照射領域の温度をリアルタイムに測定する技術を導入し、より安全かつ確実な加熱が可能となっている。フォーラムでは、HIFU装置の特徴や治療成績と共に、最近の技術の進歩についても紹介したい。
【略 歴】 |
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氏 名 |
本間 之夫(ほんま ゆきお) |
現 職 |
東京大学医学部泌尿器科 教授 |
履 歴 |
1978年 東京大学医学部卒業
東京大学医学部付属病院・都立駒込病院・自衛隊中央病院
三井記念病院を経て
1983年 米国ノースウエスタン大学医学部病理学研究員
1985年 東京逓信病院泌尿器科医員
1988年 東京大学医学部泌尿器科講師
2000年 東京大学大学院医学系研究科泌尿器外科学助教授
2003年 日本赤十字社医療センター泌尿器科部長
2008年 東京大学大学院医学系研究科泌尿器外科学教授
現在に至る |
放医研では、1994年6月、医療用粒子加速器としては世界初のハイマックから得られる重粒子線(炭素イオン線)用いてがん治療臨床試験が開始された。
これまで色々な部位のがんに対して重粒子線の有用性を確認してきたが、2003年には厚生労働省より「固形がんに対する重粒子線治療」という名称で高度先進医療の承認が得られた。重粒子線治療はこれでようやく一般医療の仲間入りを果たしたことになるが、次の目標は保健医療として認められることである。
重粒子線は、これまで放射線抵抗性と言われてきた難治性がんに対して有効であり、さらに従来の治療よりも治療期間を大幅に短縮できるという利点がある。
これは、従来の放射線よりも線量集中性に優れ、かつ高い生物効果(細胞致死作用)を有しているからである。
これまでの経験から、重粒子線が有効ながんは、① 組織型では、光子線や陽子線が比較的効きにくい腺癌系や肉腫系(悪性黒色腫、骨・軟部肉腫など)、② 原発部位では、頭頚部、肺、肝、前立腺、骨・軟部組織、骨盤内など、及び③ 周辺に重要器官(眼、脊髄、消化管など)があり、比較的大きくて、不規則な形をした腫瘍、などである。
但し、病巣が消化管そのもの、あるいは消化管に浸潤したものは、重粒子線単独では制御困難である。重粒子線は治療上有利な生物学的線量分布を有しているため、治療を短期間に終えることが可能である。ちなみに、I期肺癌や肝癌に対しての治療はそれぞれ1、2回照射で済み、また前立腺癌や骨軟部腫瘍でも、光子線や陽子線治療の照射回数と比べると約半分の治療回数・期間で済んでいる。このことは、重粒子線治療が他の治療法よりも多くの患者さんを治療出来ることを意味している。
この講演においては、世界の状況や将来展望についても述べたい。
【略 歴】 |
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氏 名 |
辻井 博彦(つじい ひろひこ) |
現 職 |
放射線医学総合研究所 理事
千葉大学医学部連携大学院 教授
群馬大学医学部 客員教授(併任) |
履 歴 |
1968年 北大学医学部卒業
1969年 国立札幌病院放射線科
1972年 米国で放射線治療レジデント
1974年 北大医学部放射線科
在職中、米国とスイスで各1年間パイ中間子治療プロジェクト
に参加
1990年 筑波大学臨床医学系教授(陽子線医学利用研究センター長)
世界で初めて深部がんに対する陽子線治療を実施
1994年 放射線医学総合研究所
世界で初めて炭素線治療を実施
重粒子医科学センター病院長・センター長を経て、2008年より
理事に就任 |
その他 |
2005年 高松宮妃癌研究基金学術賞
2005年 科学技術制作研究所研究者賞
2006年 国際粒子線治療研究グループ(PTCOG)会長就任
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